近年では「デジタル・トランスフォーメーション(会社の在り方自体をITで大きく変革する考え)」や「デジタライゼーション(企業サービスにITを組み合わせ、新しい価値を創造していく考え)」などの観点から、企業のIT投資額がどんどん上がっています。そしてIT自体もユーザーに合わせ、ますます進化を遂げています。
代表例とも言えるのが「コグニティブコンピューティング(Cognitive Computing)」です。従来のただ命令された処理を実行するだけのコンピューティングとは打って変わり、自律的に判断してユーザーをサポートできるコグニティブコンピューティングは、まさに次世代を担っていくITです。
今回はコグニティブコンピューティングとは何か、混同しがちな「AI(人工知能)」との違いやメリット、実際に活用されている事例まで含めて分かりやすくご紹介していきます。「コグニティブコンピューティングとは何か知りたい」、「業務改革にコグニティブコンピューティングが有効だと聞いたが、どう活用すればよいのか分かりやすく解説してほしい」という方はぜひご覧ください。
目次
コグニティブコンピューティングとは
コグニティブコンピューティングとは、「情報を認識して、自律的に処理を返せるコンピューティング技術」を指します。ただ与えられた情報を処理して決まり切った結果を出力するのではなく、与えられたデータをもとに独自の処理を行い、ユーザーにとって有益な情報を提供できます。
コグニティブコンピューティングで一番分かりやすい例は「IBM」が開発した「ワトソン(Watson)」です。ワトソンは業務で活用されることを前提に開発された「拡張知能(Argumented Intelligence)」であり、さまざまな業種で導入が進んでいます。
ワトソンはコグニティブコンピューティングによって業務データを解析し学習、最適な回答を利用者に返せるようになっています。そしてデータを受け取れば受け取るほど学習して成長するので、その場その場に合わせた適格で有益性の高い情報をユーザーに提供できるようになります。これにより導入企業では業務効率化や、新しいビジネスチャンスを見いだしたりとさまざまなメリットが受けられます。
コグニティブコンピューティングとAIの違いとは
ここまでコグニティブコンピューティングの説明を聞いていた方には、「何となく意味は分かったが、AIとの違いがいまいち分からない」と思われる場合もあるかもしれません。コグニティブコンピューティングとAIは、コンセプトが異なります。
AIは言わば「人間の脳を電子部品とプログラムなどにより置き換えたような存在」で、従来人間が行っていた活動をコンピューターにより代用することがコンセプトです。そのため人間が行っていた業務を肩代わりできますが、サポートしようという視点がありません。
AIをそのまま進化させて突きつめると、いずれ「シンギュラリティ(人間をあらゆる面でAIが凌駕し、なり替わるのではないかという考え)」が起こるのではないと心配されているのはこのためです。
一方コグニティブコンピューティングは、AIと同じように自己学習を行い成長はします。ただしあくまで「人間をコンピューティングによりサポートしよう」というのがコンセプトです。
ですから人間の行っている日常活動や業務などをサポートはしますが、丸ごと代行してなり替わろうとする心配はありません。
AIとコグニティブコンピューティングはコンセプトが違いますが、共存は可能です。例えばワトソンは拡張知能とIBMからは発表されていますが、実質コグニティブコンピューティングを行うAIです。
ワトソンは人間の仕事を身ぐるみ奪うような処理は決して行わず、私たちをサポートしてくれます。ワトソンと人間の関係のように、平和的にAIと人間が共存できる社会を実現できる一つの考えが、コグニティブコンピューティングと言えます。
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コグニティブコンピューティング導入のメリット
コグニティブコンピューティングを企業で導入すると、次のようなメリットがあります。
・さまざまな場面で応用が可能
・学習すればするたびに成長する
・人的ミスも削減可能
さまざまな場面で応用が可能
コグニティブコンピューティングは、さまざまな応用が利きます。
例えばカスタマーセンターでの応対をコグニティブコンピューティングに任せ、短時間で的確にお客様の質問に回答を行ったりできます。また業務データ分析に活用すれば人間では考えつかないような超スピードで結果を出力するので、改善点をそこから洗い出しながら次の戦略もスピーディーに進められます。
このようにさまざまな場面で、コグニティブコンピューティングは応用可能です。
学習すればするたびに成長する
学習すればするたびに成長するというのも、既存のITサービスにはないコグニティブコンピューティングの大きなメリットです。
最初は回答もおぼつかないコグニティブコンピューティングですが、社内で業務トレーニングを行いさまざまなデータを与えれば、そこから自己判断を行って精度の高い回答を導き出せるようになります。そして実際の業務でも改善点などを自動でフィードバックし、より細かい対応ができるようになります。
自己学習によりどんどん伸びていくので、コグニティブコンピューティングを使えば使うほど業務の質も向上していきます。
人的ミスも削減可能
例えば製造業では欠陥品が発生しますが、人の手だけでは欠陥品を見逃してしまいそのまま出荷、という可能性もあります。
コグニティブコンピューティングでは既存のデータに基づき、どういうものが欠陥品と認識されるかを自動で学習します。そして画像認識などで欠陥品を人の手より確実に見つけ出し、処理できます。このように人的ミスを削減し、精度の高い業務が行えるようになるのもコグニティブコンピューティングのメリットです。
活用事例から学ぶ、コグニティブコンピューティング活用のコツ
ここからは、コグニティブコンピューティングの参考事例を3つご紹介していきます。コグニティブコンピューティング導入検討の際などに、ぜひ参考にしてくださいね。
・銀行業界
・製造業界
・アプリ業界
銀行業界
銀行業界では、主にカスタマーサポートにコグニティブコンピューティングが活用されています。
複雑な手続きも多い銀行業界では、お客様の質問にカスタマーサポートで適切な対応を行うのに時間がかかりがちなのが難点でした。また決まり切った質問も多く、いちいちオペレーターが対応すると時間の無駄にもつながっていました。
コグニティブコンピューティングを導入した銀行では多少複雑な質問内容も、オペレーターの内容入力や音声聞き取りなどにより適格に素早く回答できるようになりました。また決まり切った質問もコグニティブコンピューティングが代行してくれるようになり、オペレーターの対応時間短縮や、人件費削減など業務改革に成功しています。
銀行業界のようにカスタマーサポートにコグニティブコンピューティングを活用すれば、大幅な業務時間短縮や人件費削減などに役立てられます。
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製造業界
製造業界では先ほど言ったように、欠陥品の素早い発見などにコグニティブコンピューティングが活用されています。また製造設備に異常や故障などがあった場合にいち早く発見する目的でも、コグニティブコンピューティングが活用されています。
製造業ではあらゆる設備をインターネットにつなぎ、一元管理する「IoT(Internet of Things)」が進んでいます。そのような中でよりIoTを活用した業務の精度を上げさらなる業務改革を行うためにも、コグニティブコンピューティングは有効な手段となっています。
アプリ業界
コグニティブコンピューティングはプログラムをもとに提供されていますから、当然プログラムをもとに製品を開発するアプリ業界でも活用されています。
例えば音声認識アプリでコグニティブコンピューティングを活用して、テキストから人間の感情やニュアンスまでをも読み取って、的確な分析を行えるようなアプリが開発されています。また画像認識とコグニティブコンピューティングを組み合わせた、高い検出精度を誇るアプリが登場しています。
このようにアプリ業界ではコグニティブコンピューティングを活用することで、今までよりもさらに価値の高いアプリサービスをユーザーに提供できるようになっています。
まとめ
今回はコグニティブコンピューティングの概要やAIとの違い、そしてメリットや活用事例までご紹介しました。
コグニティブコンピューティングを企業で導入すれば、業務効率化や業務の質向上などのメリットにより、業務改革も行えます。決して安いサービスではありませんが、上手く活用すればそれ以上のメリットを得られるでしょう。
コグニティブコンピューティングの技術は、これからも確実に進化を続けます。コグニティブコンピューティングのこれからの動向にも注目してみてくださいね。
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