主にホワイトカラーの定型作業を自動化するRPA「ロボティック・プロセス・オートメーション」は、企業の業務改善に劇的な効果をもたらすことから、ここ数年で急速に注目を集めています。これまで人手に頼っていた特定の入力作業などを「ソフトウエアロボット」に代行させることを、業務の「RPA化」と呼ぶこともあります。
今回はRPA導入にあたって検討したい課題や、注意したい点についてまとめてみました。
あわせて、業種ごとのRPA活用事例もご紹介します。
※RPAの基本や導入の進め方、AIとの違いについては、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは?基本から導入の進め方までまとめて解説」https://winactor.com/column/about_rpaという記事をご参照ください。
目次
RPAは自動化したい業務を決めることが先決
企業はどのようにRPAを活用しているのか
RPA導入フェーズは段階的に
RPAは自動化したい業務を決めることが先決
RPAの導入にあたっては、具体的にこれまで人手に頼っていたどのような作業を自動化したいのかを明確にする必要があります。また、単に自動化というと、エクセルのマクロを利用したデータ処理などと混同されがちです。
ここからは、RPAと、プログラミングによってソフトウエアを自動化する方法との違いについても解説していきます。
いわゆる「RPA化」とは何か
RPAについて書かれた記事中に「RPA化」という言葉が使われている場合があります。これはRPAツールを使って特定の業務を自動化することと同義だと考えられます。
ホワイトカラーの現場では、エクセルからCRM(Customer Relationship Management、顧客情報管理)やSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)、社内内製化ツールにデータを取り込む作業などをRPAツールに任せるニーズが高まっています。
国内では少子高齢化を背景として、生産年齢人口が減っていくことが予測されます。人手不足が深刻化するなかで、データを添付してからメールを送信するといった面倒な作業も、RPAによって自動化したいという要望が多いといえます。
RPAでできること、できないこと
RPAは、ルール化された定型作業について繰り返し行う(反復する)ことができます。しかも人間のようにミスをすることがなく、休憩や食事、睡眠をとる必要がないので、24時間365日、あるいはタイマーを設定して決まった時間(例えば毎日深夜だけ)といったように動かすことができます。
一方で、顧客からの問い合わせをメールで受けた時に、「とるべき対応を判断してから、文面を変えて返信する」といった業務はできません。あくまで決まったルールに従って(ルールベースで)動くためです。現状のRPAでは、請求書をメールで受け取ったという通知を自動で返信するといった作業はできます。
現状では、「どの業務をRPAによって自動化するか」といった検討や判断をすることはロボットにはできません。自動化するべき業務の判定も将来、AIが人間に代わって判断できるようになるかも知れませんが、現状ではこういった判断は人間が行うしかありません。
ただ、AIに関する技術で特に注目を集めているのが、ディープラーニング(深層学習)の発達です。接客応対への応用研究が進んでいて、自然言語処理という技術が高度化していけば、人間に近い電話応対ができる「AIヘルプデスク」が、登場してくる可能性は十分にあります。
RPAが次の発展段階(ステージ)に上がるためには、定型業務だけでなく、非定型業務にも対応できるようになることが必要です。この話については後ほど触れます。
関連ページ:RPAができることって何?
RPAの導入はノンプログラミングでできる
RPAツールを導入する際によく言われるのが、プログラミング不要(ノンプログラミング)ということです。そう言われても、ピンとこない方のために、幅広い企業や官公庁で使われている Microsoft社のパッケージソフト「Office」を使って業務を効率化する場合と比較してみます。
まず、メールソフト「Outlook」からすべての連絡先を文書ソフト「Word」にコピーし、それらに特定の方法で書式を設定する必要があるとします。こうした作業を自動化する際、「VBA For Office」というプログラミング言語を使って機能を拡張することができます。ただ、あくまでこの機能拡張はOfficeアプリケーション同士でデータのやりとりを自動的に行うものです。Wordにコピーしたデータを社内システムに取り込もうとすると、別にプログラミングが必要になってきたりします。
一方でRPAはプログラミングができる人がいなくても、パソコン画面上でRPAに任せたい操作をツールに記録(まね)させることによって、ソフトウエアロボットを作成することができます。また、異なるソフトウェアをまたいで動作させることもできるので、データ連係がスムーズにいくというメリットもあります。
RPAの3類型
ここで、RPAには「クライアント型」「サーバー型」「クラウド型」と三つの類型があるという話をしたいと思います。
一つ目のクライアント型は、クライアント(企業など)のパソコン内で動作するものです。基本的には、自動化を行う作業は各パソコン上で行うものに限定されます。パソコン単位で導入・動作ができることから、個人、部門単位で小規模で低コストにRPAを導入することが可能です。
二つ目のサーバー型とは、自社のサーバーにRPAソフトをインストールして使うものです。ある程度決められたテンプレートを基に、業務の自動化を進めていくこともできます。ただし、サーバー型は導入の規模がクライアント型に比べて大がかりになり、導入コストも高くなります。
三つ目のクラウド型は、インターネットのクラウド上にあるソフトウエアロボットによって、作業を自動化するという手法です。自動化できる範囲がWebブラウザ上での作業に限られることから、導入価格を安く抑えられます。業務でクラウド型のサービスを利用していて、その業務を自動化させたいという場合には、親和性が高いといえます。デメリットとしては、クラウドサービス以外との連携が難しいことなどが挙げられます。
また、自社で一からRPAを自前で構築するという方法もありますが、要件定義やソフトウエアロボット開発を、基本的には社内の人員やパソコン・サーバーなどのハードウエアでくみ上げることになります。ツールに合わせるのではなく、自社のシステム環境や業務フローなどに合わせて、開発が進められるというメリットがあります。
一方で、自社でRPA開発を行い機能拡張や高度化を図っていくためには、専門知識も必要になってきます。社内にシステムエンジニア(SE)などの人材がそろっていないと導入が難しいといえます。また、要件定義段階から多くの人手を必要とするため、経営判断によるプロジェクトとして立ち上げないと、うまく回らず、開発期間が長引く恐れもあります。
こうしたなかで、多くの企業で導入されているRPAツールを活用すれば、自社内の他のシステムとの連携も比較的やさしくできて、自社開発よりも低コストで導入できます。ただ、テンプレートが自社の業務にうまくはまるかどうかなどについて、よく検討することが必要です
RPAツールを検討する前に、自社が三つの類型のうち、どれが最適なのかをじっくり検討する必要がありそうです。さらに、管理者が不在になり放置されたロボットは「野良ロボット」などと呼ばれたりしますが、導入後のロボットの管理や業務の変化に合わせた修正などを誰がやるのかを、事前に決めておくことも重要です。
RPAを導入する会社のリソース(社内エンジニアの人数や質、社員のITリテラシーの程度)などに応じて、柔軟にツールやサービスを考える必要がありそうです。
企業はどのようにRPAを活用しているのか
それでは実際に、RPAがどのように活用されているのかを、業種ごとにみていきます。
金融機関における活用事例
大手金融機関では三大メガバンクのうち、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友フィナンシャルグループ(FG)がRPAによる業務の自動化によって業務量の削減を進めています。みずほフィナンシャルグループ(FG)は、ベンチャー企業のBlue Lab(ブルーラボ)などと共同で、AI(人工知能)、OCR(文字認識技術)、RPAを活用した、手書き・非定型帳票の事務効率化ソリューションの実証実験に成功しました。
今後は、みずほグループ内での実用化により、業務の大幅な生産性向上を目指すとしています。手書き・非定型帳票の事務処理業務については、みずほ内の実用化にとどまらず、金融機関や事業法人向けのソリューション提供の事業化に着手していきます。
みずほグループは手書き・非定型帳票業務の自動化にめどをつけ、従来はマニュアル作業が必要だった同業務にデジタル技術を採用し、高い精度で文字情報をデータ化することにも成功したとしています。実証では約8割のマニュアル作業を削減できる可能性を見いだしたことを公表しています。
【参照】https://www.mizuho-fg.co.jp/release/pdf/20180524release_jp.pdf
地方銀行では京葉銀行が2018年1月から、本部集中業務や集計業務など9業務でRPAを試行しました。この取り組みによって、RPAの導入効果が1年あたり556時間分の作業量削減につながることを確認しています。18年7月には「RPA推進チーム」を発足させています。
京葉銀行は、NTTデータの「WinActor」を採用し、住宅ローンの審査業務を中心に、これまで約10部署、71事務のRPA化を実現してきました。
証券業界でも楽天証券が2018年1月から、RPAによる業務の自動化に取り組んでいます。楽天証券は同年度に100以上のロボットを導入しました。国内大手の野村証券や大和証券なども、RPAによる業務の効率化に乗り出しています。
生命保険業界では、日本生命保険や第一生命保険といった大手生保を中心に、保険の契約に関わる事務処理などで大規模なRPAの導入が進んでいます。特に1000万人単位で顧客を抱える生保業界は、顧客の契約管理に膨大な労力と人手を割いており、RPAによる自動化による業務量の削減は、劇的な効果をもたらしています。
関連ページ:急速に進む金融機関でのRPA導入事例とその効果
人材サービス会社における活用事例
人材サービス業界でもRPAの導入が広がっています。人材サービス業界によるRPA活用の特徴は、単なる自社業務の効率化にとどまらず、RPAの導入支援サービスや人材育成など本業の拡大にもつなげている点にあります。
人材派遣やシステム開発、アウトソーシングなどを手がけるキューアンドエーワークスは、人材派遣の採用において、ウェブ上で応募を受け付けてから応募を確認する作業を確認する作業をロボットに代行させる仕組みを導入。応募者へのメールも自動で送ることによって、応募を受け付けてから応募者に連絡するまでの時間を5分の1程度に短縮しました。
キューアンドエーワークスは外部企業に対して、RPAと人材派遣を組み合わせた「ハイブリッド型」ソリューションの提案や、RPAツールの導入支援サービスなども手がけています。
アルバイト・パート総合求人情報サイト「バイトル」などを運営するディップは、2016年に「dip.AI Lab」を設立。同時にAI・人工知能専門メディア「AINOW」を開設しています。
ディップは2018年には社内業務の自動化を推進する「dip Robotics」を設立。ディップは社内のRPA導入において、GoogleMap上で企業の所在地にマーカーを立てる作業などをRPAで自動化し、これまでに累計数十万時間分の業務をRPAにより削減したとしています。また、2019年9月、これまでの知見を生かした新サービスとなるFAST RPA「コボット」の提供も始めています。
矢野経済研究所が2019年12月24日に発表した、国内のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場の調査によると、2018年度のIT系BPO市場規模は、前年度比3.9%増の2兆4762億円、非IT系BPO市場規模は同1.9%増の1兆7348億円でした。矢野経済研は「労働力不足・人材不足に加え、働き方改革推進の影響を背景にアウトソーシングサービスへの需要が拡大している」としています。
BPO事業者のなかには、「RPAやAIなどのデジタル技術を活用することで、BPO業務の効率化・迅速化・省力化を図っている事業者もいる」(同調査より)ことが分かっています。人手不足を背景として、BPO事業者はRPAを受注獲得の武器として、業容を拡大している様子がうかがえます。
【参照】https://it.impressbm.co.jp/articles/-/19067
流通業などにおける活用事例
あるスーパーマーケットチェーンでは、全国数百店舗に並ぶ商品が集まる物流センターにおいて、以前は人手に頼っていた店舗への仕分け作業をRPAによって自動化しました。これによって、年間1万1000時間分の業務を効率化できたといいます。
不動産業のオープンハウスは、ディープラーニングや遺伝的アルゴリズムなどの高度な技術を活用することにより、これまで人が手作業で行っていた不動産の業務を自動化。既に10テーマの自動化実現により年間2万5700時間の工数削減に成功しました。一部テーマでは特許を出願中としています。
オープンハウスは2018年から、AI・RPAによる業務の自動化に取り組みはじめました。また課題とされる高度なAI人材の採用については、海外で新卒を採用するなどして、物件資料作成の機械学習モデルの開発を行うなど初年度から成果を出しています。
【参照】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000024241.html
地方自治体では新潟県長岡市が2018年9月から2カ月間、勤怠管理など一部の業務にRPAを試験導入しました。この結果、導入した部署の業務時間を合計年間2000時間以上減らせるめどが立ったとしています。
長岡市がRPAを試験導入したのは、人事課や市民課など九つの課。勤怠管理や保育園への補助金の支払い、各種入力業務など36の業務でRPAの活用を始めています。
長岡市が全市で行った調査によると、勤怠管理など定型作業の処理のわずらわしさをRPAで解消できないかという現場の着想をえて、RPAによる自動化に乗り出しました。今後は市区町村など行政事務の効率化に、RPA導入が広がっていきそうです。
メーカーにおける活用事例
JFEスチールは経費処理にRPAを導入しました。年2回発生する拠点の予算の集計について、どちらの処理も数十拠点にメールで依頼を発信後、返信結果をExcelに転記・集計し、基幹システムに入力するという定型作業でした。
従来、数十拠点に発信したメールを1拠点ずつ各拠点の担当とやりとりしながら進めて行く必要があり、経費・予算のフォーマットが拠点ごとに異なることによって、基幹システム入力用のファイルを拠点ごとに手直しする必要があるなど煩雑な業務でした。
これがRPAの導入によって、約2400時間かかっていた定型作業が約1/4の600時間に削減されました。業務効率化だけでなく、従業の業務負荷軽減にも貢献しました。
焼き肉のたれで知られるモランボンは、RPAツールで受注業務を自動化しました。従来、Webからの受注処理を手作業で行っていました。取引拡大に伴う人手不足への対応が課題でした。
そこで、モランボンではWebからの受注データのダウンロード作業を自動化するRPAツールを導入。24時間365日、ソフトウエアロボットにWeb受注業務を任せられる体制を構築しました。モランボンが自動化を計画しているWeb受注処理は約100受信あるといいます。2019年9月現在で、約16の受信を自動化しています。
担当者によると「スクリプトの開発にも慣れてきましたので、月に2受信は自動化できるよう、開発体制を強化する計画です。(中略)人事や総務、経理部門、マーケティングの分野でも対象業務をリストアップし、自動化できる仕事はどんどん進める計画」だとしています。
【参照元】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000012889.html
関連ページ:RPA導入に適した部門はどこ? 適用の条件は?
RPA導入は段階的に
ここまでRPAがさまざまな業務で威力を発揮することを、事例を交えて解説してきました。そこで、いざRPAを導入するとなったときに、「どこから手を付けたらいいのか」「どのように、社内に展開していけばいいのか」について、順を追って考えていきます。
まずは小さく回す
大企業では「何十業務でRPA化を実現し、年間○万時間分の業務を削減」などと、メディアで大々的に取り上げられることもあります。ただし、導入当初は、ある部署の特定の業務といったように、小さく自動化を回しながら、効果を検証していくことが現実的です。
例えばある部門の会計処理で、担当者が月末に売り掛けを締めるために、毎日データをパソコンで入力していたとします。こうした日々の作業をRPAに置き換えると、担当者は月末に抽出されたデータが正しく計上されているかどうかを確認するだけで済むようになります。業務負荷が減るとともに、他の生産的な業務に時間を割けるようになります。
また、ソフトウエアロボットは社員が帰宅した夜中にも働くことができるので、顧客とのやりとりも翌朝までに終わらせることが可能です。RPAは従業員の働き方改革にもつながることから、RPAを入れた現場に他の部署の人が見学に訪れるといったエピソードも、導入企業ではよく聞く話です。
あるメーカーでは、仕入れ先が発注番号と希望納期をメール送信すれば、メールの自動返信機能により、納期調整をしてくれる仕組みをRPAで構築しました。夜中のうちに、仕入れ先との納期調整に必要なファイルが自動返信され、社員が納期調整のために夜遅くまで残業したり、朝早く来たりする必要がなくなりました。
こうした目に見える成果が社内に伝わると、「うちの部署でも自動化してほしい業務がある」と、次々に手が挙がってきます。
また、顧客情報をエクセルから社内システムに転記したり、ある属性の顧客群を抽出するといった作業も、RPA化による削減効果が高いと見込まれます。
顧客からの製品購入の受け付けと、社内の顧客情報が一致しているかどうかをチェックするといった業務も、RPAに置き換えることによって従業員の作業負荷が大きく軽減されます。営業担当者から顧客情報を表計算ソフトで受け取り、変更部分を手入力する手間が省けます。
一つの部門・業務での成功体験を社内のモデルケースとして、横展開していけば、全社的にRPA化を進めていくとっかかりになります。
複数の部署に展開
特定の部門でRPAの導入に成功した後は、経費精算といった全社に共通する業務や、本社の人事や労務部門といった管理部門などにもRPAを導入していく段階に入っていきます。
MM総研が2019年1月に実施した「RPA国内利用動向調査」によると、国内企業のRPA導入率は32%、2018年6月調査から10ポイント増と導入が加速しています。RPAの満足度は59%と高く、企業は業務負担の軽減や人手不足対策への効果を実感していることが分かります。
RPA導入率を企業規模別にみると、年商1,000億円以上の大手企業で39%、年商1,000億円未満の中堅・中小企業では27%となりました。大手企業が先行する形ではあるものの、中堅・中小企業でもRPAは普及期を迎えているといえるでしょう。実際に、導入企業の79%が更なる利用拡大を志向していることも分かっています。
同調査ではRPA導入済み企業(n=361)に今後の利用方針を聞いています。その結果「利用拡大に前向き」が79%となった一方で、利用中止など後ろ向きな企業はわずか2%にとどまりました。
【参照】https://www.m2ri.jp/news/detail.html?id=336
MM総研は、「RPAの更なる高度化や適用範囲の拡大など、より深く使いこなすニーズは顕在化しており、特に大手企業でその傾向が強い」としています。特にRPAの普及率が約4割に達している大手企業においては、RPAを新規に導入していく段階から、より深く使いこなす段階に入ってきたことが分かります。
本社部門の従業員が、数千人から1万人を超えるような大企業になってくると、経費精算などはシステムや事務コストが膨大になります。紙ベースの帳票を使っていれば、なおさらです。間接部門のRPA導入は、今後も大幅なコスト削減が期待できます。
ただ、経費精算などのシステムは、企業独自で構築した古いシステムを使っていたり、反対に最新型のクラウドシステムを導入していたりと、企業によってシステム環境が大きく異なります。現行のシステムやRPAツールの相性などを、検討段階からよく確認しておく必要がありそうです。
OCRと組み合わせる
デジタル化が進む昨今でも、帳票のやりとりをいまだに手書きのファクシミリで受け付けるなど、アナログ式が残っている日本企業は多く存在します。こうしたなかでOCRとの併用により、これまで人力に頼っていた業務をRPAによってデジタル化する取り組みも進んでいます。
大量の紙の納品書の情報を、購買システムに入力する作業もRPA化の対象となります。具体的には、納品書を業務用スキャナーで取り込み、OCRソフトで変換した電子データ情報をRPAが購買システムへ入力します。これによって担当者の入力作業がなくなり、担当者はOCRで取り込んだデータの結果を確認し、修正だけをすれば済みます。また、スキャンした段階で、納品書を電子化することも可能になります。
NTT東日本は手書きの帳票を自動でデジタルデータ化するOCRサービス「AIよみと〜る」について、地方公共団体を相互に接続する総合行政ネットワークでも利用できる自治体向けサービスを始めています。
同サービスは、AIインサイドという会社が開発したAIを採用することで96%以上の文字認識率を実現しました。長野市と行った試験運用においては、読み取り精度98.4%を達成したといいます。RPAツールと組み合わせることで、ふるさと納税関連業務の作業時間が従来比65%減らせたという実績もあります。
また、サービス業では販売実績を、紙ベースの日報や週報でまとめているところもあります。これらの作成業務にRPAを適用した例もあります。契約店からの注文を管理する受注センターで、手書きの文書をFAXで送ってくる関係先もいます。この手書き文書の読み取りにRPAを活用することができます。
ただ、RPAだけでは手書き文書を読み取れないという課題もありました。最近ではAIを使うOCRを導入することによって、手書き文字を電子化し、RPAに読み込めるようにするといった手法が拡がっています。AIについては次に説明しますが、手書き文書のデジタル化では「OCR+AI」という組み合わせが主流になりつつあります。
関連ページ:書類の管理に役立つ! OCRの活用法とは!
AIを頭脳として高度化を図る
RPAとAIの関係は、身体と頭脳に例えられることがあります。RPAはルール通りに動く手足で、何かを検知したり予知したりする脳の役割をするのがAIという意味です。
実際、工場においては、製造ラインの機械の保守・点検にOCRとAIが活用されようとしています。日報の情報をAIに学習させ、機械に不具合がありそうなときに、AIがアラート(警告)を発するという取り組みです。その後はAIからアラートを受け取ったソフトウエアロボットが、自動的に制御室に検知したデータを送るということが想定されています。
機械の不具合といえばこれまで、熟練工が見た目(振動など)や音、匂いなどという人間の感覚で判断してきました。こうした人間の感性に頼ってきた部分をAIとロボットが二人三脚で担う時代はすぐそこまで来ています。
サービス業では、コールセンターなどの顧客対応でAIを組み込んだチャットボットなどとRPAを組み合わせることにより、RPA単独ではできなかったより高度な自動応答が可能になると見込まれています。
また、リアルのロボットと、仮想のロボット(ソフトウエアロボット)が合体する動きも出てきました。
デンソーウェーブは、RPAと小型ロボットによる事務作業のソリューションシステムを開発したと発表しています。日立キャピタルが2020年3月からレンタルなどで提供するとしています。
同システムはオフィス向け自動化支援として展開する予定です。デンソーウェーブの小型ロボット「COBOTTA(コボッタ)」2台やカメラを搭載し、RPAの機能を搭載するほか、書類への押印やページをめくりながらの印刷物の撮像・電子化までを基本機能として備えています。
RPAはこれまで、ルールベースで動くため、パソコンでの入力作業やOCRなど使った情報の読み取り、検証作業といった定型作業の自動代行に使われてきました。これからはRPAの高度化や適用範囲の拡大が進む見通しで、AIとの組み合わせにより、第二段階とされる「一部非定型業務の自動代行」という領域にも入っていくことが予想されます。RPA(手足)、AI(頭)、リアルのロボット(胴体)が三位一体となったハイブリッド型のロボットが誕生する日は、そう遠くないかも知れません。
関連ページ:各社が導入中のAI×RPAがもたらす業務効率化
まとめ
RPAはまず、自動化したい業務ありきです。日々人力によって処理しているさまざまな定型業務のうち、社内をヒアリングするなどして、優先順位を決めて「小さく」始めることが効果的です。次に成果を見極めながら他部署や全社に展開していくことがおすすめです。
また、RPAはツールを導入して終わりではありません。業務の変化や職員の入れ替わりなどに応じて調整が必要になってきます。また、人事異動などによって「誰が管理者か分からない」といった事態は避けたいものです。導入してからの運用体制も考慮に入れたうえで、導入準備を進めることが重要です。
ベンダーや社内の情報システム部門に運用を丸投げすると、思わぬ落とし穴も待っています。それは、RPAの運用においてタスクマネージャーやそれぞれのツールのサーバ型管理ツールなどで、「日時指定実行」「定期実行」を行っていると、野良ロボットができてしまう可能性があるからです。
RPAが複数稼働していくと、管理の行き届かないロボットが出てきてしまう恐れもあります。RPAを管理する体制を社内で構築することも求められます。
ここでRPAをめぐる市場の状況について振り返ってみます。富士キメラ総研は、2019年度のRPAツールの国内市場を18年度比80.2%増の400億円に拡大するとの見通しを公表しました。
人手不足や残業時間の見直しなどを背景として、業務効率化へのニーズは年々高まっていて、市場は拡大しているとの認識です。富士キメラ総研は2023年度には、RPAツールの市場規模は2018年度比2.4倍の535億円に拡大するとも予測しています。
AI関連製品との連携や、ユーザーの業務プロセスの可視化によって、RPAツールを導入すべき業務の選定が効率的に行われるとともに、RPAのさらなる普及に拍車がかかりそうです。
おわりに
国内外にはどのようなRPAツールがあるのかを簡単にご紹介します。先に、RPAには「クライアント型」「サーバー型」「クラウド型」と三つの類型があると説明しましたが、海外製や国内製を含めてさまざまなRPAツールが開発されています。
この中から、国内でメジャーなRPAツールである「WinActor」をご紹介します。
WinActorは、NTTグループで研究・利用を続け、技術とノウハウが詰まった、業務効率を支援するソフトウェア型ロボットです。WinActorはクライアント型のRPAツールで、Windows上で操作可能なアプリケーション、個別の業務システムを利用した業務をシナリオ(ワークフロー)として学習し、ユーザのPC業務を自動化します。
WinActorは、NTTグループによって開発・利用されてきた長い歴史に裏打ちされた、純国産「RPA」ソリューションです。人間の作業をただ代わりに行うだけでなく、「人間と寄り添い、互いに成長する関係を構築するRPA」を目指しています。国内産で導入後も安定して利用できるという安心感から、さまざまな業界・業種において、定型業務の省力化や作業効率と品質の向上に貢献してきました。1900社を超える企業が活用しています(2018年12月末現在)。
WinActorについて詳しく知りたい方は、下記URLをクリックしてみてください
(参照)https://winactor.com/
そのほかに、米国製の「UiPath」という世界でトップクラスのシェアを維持し、国内でも急拡大中のRPAツールがあります。アイ・ティ・アールがまとめた市場調査レポート「ITR Market View RPA/OCR/BPM市場2019」によりますと、国内RPA市場の売り上げシェアにおいて、2年連続で第1位を獲得しました。
UiPathは小規模なRPAの導入から大規模運用まで、幅広く対応可能なRPAツールです。サーバ型とデスクトップ型の双方に対応可能なのも特徴です。UiPathはクライアント型からサーバー型に切り替えることも可能で、まずはクライアント型で小規模な導入を進めて、効果を実感した後に規模の拡大に合わせてサーバー型へ移行するといった進め方もできます。
UiPathは豊富なアプリケーション機能により、幅広く複雑な業務の自動化・高い開発生産性が実現できます。複数のオブジェクト認識方法に加えリモートデスクトップに対応しています。さらに日本語に対応し海外製品ではあるものの、国内サポートが手厚いというのも強みです。
米UiPath社の日本法人であるUiPath社は、「NTTデータ イントラマート」と同社が提供するBPMツール「IM-BPM」とRPAソフトウェア「UiPath」を連携しました。IM-BPMとUiPathを組み合わせ、業務プロセス全般を自動化することが可能になります。
RPAで自動化したい業務が決まったら、会社の人員体制や予算などを考慮しながら、自社に合ったRPAツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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産業経済紙で20年以上にわたり、記者・編集職に従事。ニュースサイトの運営に携わった経験もあり、紙・デジタル媒体双方を行き来しながら、執筆活動中。得意分野は金融、HR、デジタルテクノロジー。本業の傍ら、デジタルエコノミー、働き方、ベンチャービジネス(VB)などに関する記事をウェブメディアなどに寄稿している。