コロナ禍で、企業の組織体制や文化ごとビジネスモデルをデジタル技術によって変革していく「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の重要性が高まっています。DXにより災害が発生しても事業継続性を保てる強い企業ができ上がるでしょう。
しかしDXの実現は簡単ではなく、「デジタル・イノベーション・カンファレンス2019」では「デジタルトランスフォーメーションに関する世界中の取組の内、95%が失敗に終わっている」と発表されています。日本企業もDXを理解していないといった理由でDX導入に失敗するところが多く存在しているので、事前になぜ失敗したかを理解して自社の教訓として取り入れるのも重要です。
今回はDXに失敗したくない方に向けて、DXの失敗事例を解説していきます。
目次
失敗事例5:目的を定めずに他社に引っ張られてDXを進めようとする
失敗事例6:経営者がプロジェクトスタートの後、現場にDX推進を丸投げする
失敗事例1:DXの意味を理解できていない
DXはいろいろな意味で解釈されますが、企業においては「デジタル技術を基盤にビジネスモデルを変革して、組織体制や文化などもいっしょに新しいものへと変えていく考え」と認識しておけばよいでしょう。しかしDXという言葉は何となく理解できるというレベルのまま、経営陣がDXへの取組を推進してしまうという事例も見受けられます。
DXを理解しないまま取組を進めてしまうと、さまざまな弊害が起こるので注意が必要です。たとえば「DXは業務にデジタルツールを取り入れることだ」という認識でツールの導入だけを進めてしまうと、企業プロセスにデジタル技術で新しい価値を付与する「デジタイゼーション」の段階に改革がとどまってしまいます。また「我が社ではすでにデジタルツールを導入しているから、DXを達成している」と考えるのも間違いです。
DXは企業体制自体を変革する抜本的な取組なので、時間を掛けて段階ごとに以降を進めていく必要があります。
失敗事例2:DXを推進できる体制が整っていない
DXについて理解はしていても、推進できる体制が整っていなければ進められません。DXを進めていくにはまず大前提としてデジタイゼーションを達成していること、さらに
・DXの推進部門を立ち上げている
・現場と経営者双方がDXについて理解している
といった準備を行っておく必要があります。
DXでは専門のスタッフを抜擢して、改革の中心になってもらうことがポイントです。また社内全体がDXの意味や意義を理解して、積極的に取り組めるように体制を作っておくことも重要になってきます。
失敗事例3:新しいシステムを導入しただけで満足する
DXを進めるために新しいシステムを導入しただけで満足してはいけません。新システムを社内で活用してDXを進めていくためには、社内の既存システムをすべて把握して整理及び連携できるようにしておきましょう。
経済産業省の「DXレポート」では、多くの企業でシステムのブラックボックス化が起こっていると発表しています。具体的には細かいビジネスの変化に対応するためその場しのぎのアップデートを繰り返し、システムの中身が分からなくなっていきます。そしてベテランのITリソースが退社してシステムを管理できる人間がいなくなるといった原因で、システムを活用できない状況に陥っているというのがポイントです。
そして基幹系のシステムが部署や部門ごとに分割されているのも問題です。ブラックボックス化したシステムが分散していると業務効率化の妨げになるだけでなく、維持管理費などにも多額のコストが掛かってきます。
DXを進めるには
・アップデート頻度が多い機能はクラウド化する
・必要のない機能は廃棄する
・必要だがアップデート頻度が少ない機能は塩漬けにする
といった取組で、既存システムのブラックボックス化を解消していく必要があります。
またシステムを変革する場合はベンダーに投げるのではなく、問題点を洗い出して具体的にどうしてほしいのかを相談するといったように積極的に自社からも働きかけを行っていきましょう。「ITリソースが不足している」という場合は、多少コストが掛かってもDXの中心となるようなメンバーを新しく雇い入れる必要もあります。
失敗事例4:現場と経営陣との間に溝がある
DX推進には社内一丸となって取り組める体制作りが必須ですが、すべての企業で体制が整っている状況ではありません。
・経営陣が変革を進めようとしても、現場が保守的で賛成してくれない
・現場がDXを進めようとしても経営者が成功体験に縛られる
といったケースにより、DXの取組が進まない事態が見られます。
・保守的にならないよう、現場へDXによって業務負担が減ることを説明する
・現場からも経営陣に働きかけてDXの必要性を理解してもらう
といった対策が必要でしょう。
失敗事例5:目的を定めずに他社に引っ張られてDXを進めようとする
他社の成功事例を参考にするのは重要ですが、「他社は成功しているから自社でもとりあえずDXを進めてみよう」という意気込みだけではDXは成功しません。まずは目的を定めて達成指標を設定し、冷静に分析を行いながらDXの進捗具合を確認していく必要があります。
DXの方針を定める際は、
・Why:なぜ推進しないといけないのか
・Where:DXによりどこを目指すのか
・What:DXのために何をするのか
・How:DXをどのように進めるのか
という3つの「W」と1つの「H」を意識して作業を行っていきましょう。
まずはWhyについて具体的に説明できるようにすると、残り3つの設定もスムーズに進められます。
また成功体験をうのみにしてまったく同じように真似るのもやめましょう。DXは会社ごとに実現方法が異なるので、成功事例と同じようにやっても上手くいかない可能性が高いです。なぜ成功したのかを噛み砕き、自社にどう生かせるのか置き換えて考える思考が重要です。
失敗事例6:経営者がプロジェクトスタートの後、現場にDX推進を丸投げする
日本では経営者が推進プロジェクトを立ち上げた後、現場に残りの作業を丸投げする傾向もあります。しかしDXで経営者が現場への丸投げを行ってしまうと、改革に失敗する危険性が高まります。
DXへの取組は長い目で行っていく必要があり、一部門だけに負担をすべて丸投げしても上手くいきません。トップダウンで改革を進められるように、
・専門部署を作った後にどんな部署か、どんな目的で動くかなどを経営陣が説明する
・部署から求められたリソースの提供を行う
といったサポートを経営者側から積極的に行っていきましょう。
失敗事例7:部署名を変更しただけで何もしていない
DXに形から入って失敗してしまう企業も多くあります。そして部署名を変更しただけで満足して何もしていないというケースも見受けられます。
「DX部署を立ち上げたからひとまず安心」とはなりません。DX部署が中心となって各施策を行いDXを浸透させていく必要がありますが、「DXは最新の取組らしいから部署名に付けておこう」というレベルの考えでは失敗する可能性が高くなります。
まとめ
今回はDXの失敗事例を説明しました。
・DXの意味をそもそも理解していない
・推進できる状態になっていない
・システムがブラックボックス化して活用できない
といった理由により、多くの企業がDXに失敗しています。
DXは新しい社会をもたらす考えであり、短期間で実現できるものではありません。デジタル化を最低限進めた上で言葉の意味を理解して、社内一丸で改革に取り組む必要があります。
ぜひ失敗事例を参考にして成功体験へとつなげてみてください。