新型コロナウイルス蔓延によってテレワークが急速に広がりましたが、テレワークを円滑に進める上で日本の昔ながらの企業文化が邪魔をしているのが大きな課題となっています。
代表的な事例が「印鑑」です。日本では印鑑を押して書類を確認する、というプロセスが今まで一般的だったため、テレワークにおいて印鑑をデジタル化していないと業務効率化やDX化を阻害してしまいます。解決方法になるかもしれないのが「電子印鑑」です。
今回は電子印鑑について知りたい方向けに電子印鑑とは何か、そしてメリットや注意点などを解説していきます。
目次
法的効力を持たせるためには電子認証を組みあわせる必要あり!電子印鑑の注意点
電子書類に印鑑を押せる!電子印鑑とは
電子印鑑とは「印鑑のデータをデジタル化して使えるようにしたもの」です。
クラウド会計ソフトウェア大手である「freee」では、テレワーク中でも出社が必要となる理由について対象者から調査を行いました。
それによると
1位:取引先から送られてくる書類の確認や整理が必要だから 38.3%
2位:社内ミーティングのため 22.8%
3位:請求書など取引先関係の書類の郵送が必要だから 22.5%
4位:契約書の押印作業が必要だから 22.2%
が上位の理由を占めています。
せっかくテレワークを取り入れていても、日本の紙の書類による取引の文化が業務効率化の邪魔をしているのが分かります。社内ミーティングについては直接対面しないと話し合いがきつい場面もあるでしょうから仕方のない面もありますが、数は減らせるはずです。
そして2位と3位に続いて、少ない差で押印作業が必要という回答が4位になっているのもポイントです。
日本では「押印をされた書類は確認されたものであり、安心できる」という固定観念があります。しかしコロナに感染するリスクのある中、押印するためだけに自宅からオフィスへ出社をするのは非効率ですし危険です。
契約書に認印が押されていても、実際に本人が押したかは判断できません。印鑑は所有していれば誰でも簡単に押せるようになっているからです。
そして押印されているだけの書類は法律的にも効力があまりありません。万が一契約時にトラブルがあった場合、真正(まさに本物であるという意味)であるというのを法律的に示しにくくなるのもデメリットになります。紙の書類を真正だと証明するには、本人の筆跡などより証明性の高い認証手段を追加する必要があるのがネックです。
企業としては印鑑の文化を一気になくせれば余裕ができるのですが、文化として根付いている以上廃止に抵抗感のある取引先も存在するはずです。デジタルデータで取引できるような態勢を整えても同様の状況に陥る企業は多いと思います。
電子印鑑を活用すれば、「デジタルデータ化した書類をわざわざいったん印刷して押印を行う」といった無駄な作業がなくなりテレワークの業務効率化にもつながるのがポイントです。
デバイスを選ばずスムーズに押印できる!電子印鑑のメリット
電子印鑑を取り入れると次のようなメリットがあります。
・テレワークにおける押印作業を効率化できる
・印刷などが発生しないのでコスト削減にもつながる
・ペーパーレスになってDXを推進できる
・電子契約に抵抗がある場合でも導入しやすい
テレワークにおける押印作業を効率化できる
紙の書類ベースで押印を行う場合
1.紙の書類を印刷する
2.朱肉と印鑑を用意する
3.印鑑を必要な部分に押し付ける
といったプロセスが発生します。
紙の書類が多ければ多いほど印鑑を押す数は増加しますし、ミスが増えていくのがネックです。押印を間違えた場合、書類をもう一度印刷したりと余計な手間が掛かってしまいます。
電子印鑑により捺印ができるようにすれば、紙の書類を印刷する必要もありませんし朱肉や印鑑も必要ありません。デジタルデータの書類に印鑑データを貼り付けて確認するだけでOKです。間違いがあった場合もその場で訂正できるので便利です。
また電子印鑑であれば、パソコンやスマホなど印鑑システムにアクセスできるデバイスがあれば時間や場所を選ばず押し印ができます。結果的にテレワークで在宅勤務になっていても、わざわざ出社する必要がなく好きなデバイスで押印作業を済ませられるようになるのもポイントです。
印刷などが発生しないのでコスト削減にもつながる
せっかくデジタルデータで書類を管理できるようになっても、押印が必要であればいちいち書類をいったん印刷してから再びデジタルデータ化、そして取引先に送付するという無駄な手間が発生します。
最初から電子データで印鑑を押せるようにするだけで、印刷が発生しなくなるので業務の無駄がなくなってコスト削減にもつながります。また紙の保管に関して発生する保管スペース代や人件費なども削減されるので、年間で見るとかなりのトータルコスト削減につながるでしょう。
ペーパーレスになってDXを推進できる
電子印鑑を活用して契約書などをデジタルデータで取引できるようになれば、紙の書類ではなく電子書類ですべての業務を回せる「ペーパーレス化」に近づけます。ペーパーレス化によって業務のあり方が大きく変わり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進もしやすくなるのがメリットです。
経済産業省の調査によると、2025年までに日本企業がDXを達成しないと、2025年以降日本経済は毎年最大12兆円の経済的損失を被ることになっています(2025年の崖)。2025年の崖を破って企業が成長を続けるためには、ペーパーレス化に伴うDXの推進が必要です。
電子契約に抵抗がある場合でも導入しやすい
紙の書類から様式を変更して電子書類で取引をかわせるようにした場合、押印を急になくす抵抗感が発生する可能性があります。
通常デジタル書類を真正と証明するには、「電子署名」と呼ばれる署名方式を書類に追加する必要があります。電子署名を行う場合特に押印を必要とせず書類の正当性を確保可能です。ただし「押印でビジュアル的に契約書の確認ができないと不安」というクライアントもいるでしょう。
電子印鑑を活用すれば、ビジュアルでも契約書の内容を確認したという印を残すことができます。いきなり電子署名だけの認証方式に変更するよりも、クライアント側に抵抗が少ない状態で取引を始められる可能性が高くなるのがメリットです。
ちなみに電子署名サービスによっては、「電子印鑑に電子署名データを組み合わせて、ビジュアル面・技術面ともに安心できるサービス」を提供しているところもあります。「電子印鑑と電子署名を別々に導入するのが面倒」という場合は、いっぺんに導入できるサービスの導入を検討してみましょう。
法的効力を持たせるためには電子認証を組みあわせる必要あり!電子印鑑の注意点
電子印鑑を自社に取り入れる際は、次の点に注意しましょう。
・単体では法的効力がない
・電子認証も組み合わせるとコストが発生する
単体では法的効力がない
電子印鑑はあくまで印鑑を画像データ化したものであり、自社で印鑑を画像化して用意することも可能です。しかし自社で用意した印鑑データはいくらでも偽造が可能なので書類の信頼性確保にはつながりません。
法的効力を持たせるためには、電子署名も組み合わせて電子書類にサインを行う必要があります。
電子認証も組み合わせるとコストが発生する
画像で印鑑データを用意するだけであればコストは掛かりませんが、電子署名も含めてサービスの導入を検討するとコストが発生します。
現在ではクラウド上で第3者機関から認証を受ける「立会人型」の電子署名方式が一般的です。立会人型の電子署名は月額費用といったコストが発生するので、ペーパーレス化で削減できる費用も含めて総合的にコスト削減のメリットがあるかよく考える必要があります。
まとめ
今回は電子印鑑のメリットや注意点などを解説しました。
電子印鑑は書類のペーパーレス化にもつながる、DXに貢献できる認証手段です。ただし単体では電子書類の正当性を証明できないので、法的効力を持たせるためには電子署名と組み合わせる必要がある点に注意しましょう。
ぜひ電子印鑑を活用してスムーズなペーパーレス化、そしてDXを実現させてみてください。