トレンド

DX推進指標から読み解くアクションプラン

経済産業省は、2019年にデジタル経営改革のための評価指標「DX推進指標」を発表しました。ITシステムの構築についてだけでなく、企業のあり方などにも言及したこの指標は、DX導入を検討している企業にとって心強い資料だといえるでしょう。
そこで今回は、DX推進指標の内容についてご紹介します。DX導入を検討している企業の担当者は、自社の状況と照らし合わせながらチェックしてみましょう。

目次

DX推進指標とは

国がDXを推進する理由

DX推進指標の内容

DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標

DXを推進する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標

まとめ

DX推進指標とは

「DX推進指標」とは、経済産業省が作成したDXについての自己診断用の指標のことです。

DXを導入して有効活用していくためには、「なぜ導入するのか」「社内や顧客に対して、どんなメリットを提供するのか」「導入するためには、社内でどんな準備をするべきなのか」など、経営者を含めた関係者たちが現状や課題に対する考え方を共有し、対策しなければなりません。

そういった自社のあるべき姿や現状のギャップ、改善するための対策を共有することと、対策が本当に有効なのかどうかを自己診断するために、DX推進指標を活用できます。

国がDXを推進する理由

インターネットの技術が発達した現代では、ITを活用した様々なビジネスモデルが登場し、大きな注目を集めています。この流れに乗り遅れてしまうと、時代に取り残されてしまうだけでなく、競争力が低下する可能性もあります。

しかし、企業が使用しているシステムの中には、複雑化・老朽化・ブラックボックス化したものが数多く残っています。そのため、いざ新しいシステムを導入しようと思っても、難易度が高いのが現状です。

さらに、経済産業省は2018年に発表したレポートによると、DXが推進できなかった場合、2025年には年間で最大12兆円の経済損失が発生する、と算出しています。このことを「2025年の崖」と呼んでおり、大きな経済損失を回避するためにも、国は組織体制の改善を含めたDXを推進しているのです。

関連記事:DXを実現できなかった場合の日本の未来を表す!2025年の崖とは

DX推進指標の内容

DX推進指標から読み解くアクションプラン

出典:経済産業省 「DX推進指標」とそのガイダンス

DX推進指標は、

・「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」
(DX推進の枠組み(定性指標)、DX推進の取組状況(定量指標))

・「DXを推進する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標」
(ITシステム構築の枠組み(定性指標)、ITシステム構築の取組状況(定量指標))

の2つで構成されています。

その中でも定性指標は「キークエスチョン」と「サブクエスチョン」の2種類で構成されており、それぞれ以下の意味合いがあります。

・キークエスチョン:経営者が自ら回答することが望ましいもの
・サブクエスチョン:経営者が経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門等と議論をしながら回答するもの

IT部門の指標に関しても、経営者だけでなく事業部門やIT部門といった関係各所を巻き込んだ議論が必要だとしています。このように、DX推進指標はただ単にシステムを導入を促しているだけでなく「導入するためにはどのように社内の体制を変えていく必要があるのか」という企業のあり方を示してくれている指標にもなっています。

DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標

まずは、「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」の内容について、抜粋してご紹介します。

ビジョン

DXを推進することで、どんな分野でどんな価値を生み出し、どのようなビジネスモデルを構築するべきかについての経営戦略・ビジョンを提示できるか、という点に着目している指標です。

「AIを使って何かやろう」と思い付きでDXを進めていっても、失敗する可能性が高くなってしまうだけです。企業文化の変革する可能性が高いので、従来のシステムに慣れている現場からの抵抗も起こり得ます。新しいビジネスモデルを構築する、コスト削減につなげるといった希望通りの成果につなげるためには、「なぜDXをするのか?」「企業文化を変えないままでいると、どんな状態になってしまうのか」を社内全体に浸透させておくことが必要です。

それぞれの部門でDXを推進させるための施策を考えて、部門を超えた議論や実行・改善を繰り返してもらう、といった当事者意識を芽生えさせるような対応も有効でしょう。

経営トップのコミットメント

企業のトップが、DXを活用したビジョンの実現に向けて、新しいビジネスモデルや業務プロセスを構築するための行動をしているかどうか、という点に着目している指標です。

例えば、

・組織を整備し、権限を委譲しているか
・適切な人材・人員をアサインしているか
・予算を十分に配分しているか
・プロジェクトや人事の評価を見直しているかどうか
・自社にとって優先すべきことを選択できているかどうか

などの行動が挙げられます。

先ほども少し触れましたが、DXを推進する際には、社員たちが慣れ親しんでいた従来までのシステムを変更せざるを得ない可能性があります。社員たちが納得して全員が同じ方向を目指して進んでいくためにも、経営者が業務の全容を理解して、社員たちから見てもわかりやすい行動をとることが必要です。

仕組み

「仕組み」に関しては、「マインドセット、企業文化」・「推進・サポート体制」・「人材育成・確保」の3つに分かれます。

マインドセット、企業文化

各部門において、DXに関する新しい取り組みを積極的に行える環境が整っているかどうか、という点に着目している指標です。

例えば、

・仮説検証を素早く繰り返すことができるプロセスが確立しているか
・仮説検証を繰り返して目的が達成された場合、評価に反映される制度が整っているかどうか

といったことが挙げられます。

DXによって生み出される価値は、必ずしも事前に想定できるとは限りません。行き当たりばったりにならないためにも、仮説を素早く検証するプロセスを作ることが必要です。

推進・サポート体制

DXを推進するためのサポート体制が整っているかどうか、という点に着目している指標です。

例えば、

・DXを推進するために、専門の部署を設置する
・DX有効活用のために、IT部門と事業部門との連携を整える
・外部企業の力を借りて、DXを推進する

などの体制を整えることが挙げられます。

DXの導入するということは、従来の社内システムから大きく変化することを意味します。そのため、自社の一部門だけで対応するにはどうしても無理が出てきてしまいます。自社内のIT部門と連携したり、外部の専門企業に依頼したりすることも有効ですので、「これからどういうことを実現したいか」を念頭に置いて、体制を整備していきましょう。

人材育成・確保

DXで実現したい目標のために、必要な人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているかどうか、という点に着目した指標です。

主に、

・事業部門において、DXの実行を担う人材の育成・確保に向けた取り組み
・ITやデータ活用に深い理解がある人材の確保や、スペシャリストを育成するシステム作り
・「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」がともに協力してDXに取り組む仕組み作り

といった内容が挙げられます。

DXに関連した人材の確保や育成をする際に注意しておきたいことは、これまで自社がスタンダードとしていた人事評価では対応できない可能性がある、ということです。人材育成・確保と併せて、人事評価・報酬体系・キャリアパスといった制度を整えることも重要です。

事業への落とし込み

顧客にとってのメリットを創りだすことに対して、経営者が先導して改革に取り組んでいるかどうか、に着目した指標です。

例えば、

・ビジョンの決定だけでなく、経営者自らがDXの必要性を説明できるか
・実行したい改革が、社内全体、外部の協力企業も含めて最適化されているかどうか
・仮に結果が出ない状況が続いても、目的を達成するために経営者が改革を先導しているかどうか

といったことが挙げられます。

DXの導入することで、新しいビジネスモデルを創りだすことができたり、業務効率化につなげたりすることができます。ですが、それだけでは足りません。前述した「ビジョン」にも通じることですが、企業が本当に考えるべきことは「DXを導入したことで、顧客にどんなメリットを提示することができるのか」という点です。その目的を達成するためには、経営者は社内の反発を収めることができる説明力を付けて、目的達成のための改革を進めていくことが必要です。

DXを推進する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標

「DXを推進する上で基盤となるITシステムの構築」に関する指標に関しては、キークエスチョンが2つあります。今回は、この2つの内容を中心にご紹介します。

ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築

ビジョンを実現させるためには、従来のシステムをどのように変更するを理解し、どのような対策をとっているか、という点に着目した指標です。

DXを進めるためのITシステムには、

・使用したいデータを、すぐに呼び出すことができるかどうか
・使用したいデータを、使いやすいかたちに整えることができるかどうか
・一部門だけでなく、社内全体でデータを活用できるシステムになっているかどうか

といったことが求められます。

例えば、システムが部門ごとに使いやすい仕様でも、同じデータを使いたい他部署にとっては使いづらいシステムになっている、といった状況になってしまうことがあります。これを解消できないとブラックボックス化が進んでしまい、先ほどご紹介した大きな損失(2025年の崖)につながってしまいます。

経営者は、上記のような正しいITシステムを構築するために、理解を深めておく必要があります。

ガバナンス・体制

ビジョンの実現に向けて、IT投資において技術的負債(※1)を低減しつつ、メリットを生み出すための資金・人材を投入できているかどうか、に着目した指標です。

DXを推進していくためには、価値創出に向け投資に必要性を理解し、何を削減してどのくらいの資金・人材を生み出すのかという発想が必要です。そのためには、部門を超えて最適化されたガバナンス・体制を構築して、トップが意思決定をしていくことが重要です。
これができないと、DXの基盤となるITシステムが構築できないだけでなく、技術的負債が減らないので大きな労力がかかってしまいます。

トップを含めた経営陣や現場の担当者たちは、ITシステムの運用・保守に対する投資管理だけでなく、戦略的な価値を上げるための仕組み作りと効果測定も一緒に考えましょう。

※1技術的負債:短期的な観点でシステムを開発し、結果として長期的に保守費や運用費が高騰している状態のこと。

まとめ

経済産業省が発表したDX推進指標は、企業がDXに取り組む際にやるべきアクションについて詳細にまとめられています。自社の経営方針や体制作りに大いに役立つ資料なので、これからDXを導入したいと検討している企業はぜひチェックしてみましょう。

また、いざDXを推進しようと思っても、社内のリソースだけでは対応しきれない箇所が出てくるかもしれません。その際は、外部の専門企業に相談することでスムーズに進んだり、有効な対策が生まれることもありますので、活用することもおすすめです。

-トレンド
-