毎日のように紙面には企業のM&Aのニュースが上がっています。近年、ビジネスのグローバル化も進み、海外企業と日本企業間の売買も頻繁に行われるようになりました。M&Aというと、何兆円規模の会社全体の売買をイメージされがちですが、日本国内においては、海外勢との大型M&Aではなく国内間での中小規模のM&Aが増加しているのです。
その中でも増加に注目を集めているのが、事業のM&Aです。主にノンコア事業とされる収益性が低いと判断された事業の他社や投資家へ売り込みが、国内で急増しています。一体、どのような背景から、ノンコア事業の売却が加速しているのでしょうか? そしてそれは、売り手・買い手にとってどのようなメリットを生み出すのでしょうか?
目次
「餅は餅屋に」コンパクトでスマートな経営へ大企業がシフトチェンジ
ノンコア事業の売却は売り手と買い手がwin-winなM&Aになりやすい
「餅は餅屋に」コンパクトでスマートな経営へ大企業がシフトチェンジ
国内大手と呼ばれる各企業では、経営の多角化がブームのように訪れた時代がありました。予想もしなかったような業界への新規参入も相次ぎ、新しい事業を立ち上げては子会社化して、どんどん経営規模を大きくしていったのです。しかし、総収益の8割は上位2割の事業によってもたらされるという法則があるように、手広く広げ過ぎた事業の中には収益が伸び悩んでいる、または赤字続きといったような「お荷物事業」が存在します。企業全体での収支のトータルバランスが取れていればなんとか継続してこられた事業も、近年はそうはいかなくなっています。それが、ノンコア事業売却を決断する大きな理由なのです。
ノンコア事業とはいえ、そこに所属する社員の人件費や、運営・管理コストは必然的に発生します。しかし、近年深刻化する労働人口不足もあり、コア業務でさえ優秀な人員獲得が容易ではありません。業績はイマイチなのに、社員は確保しなければならない状況は、企業にとっても労力もコストもかかります。収益の上がらない事業は、いわば企業のぜい肉です。振るわない事業に人員と労力、資金を費やすよりも、メインの稼ぎ頭であるコア事業の品質をもっと上げることに注力した方が良いのは明確です。広く・浅く広げ過ぎた事業(ぜい肉)を落とし、コアに専念したコンパクトでスマートな経営へと舵を切りなおす流れが売却を後押ししているのです。
投資対象としての事業買収
売り手側がいくらノンコア業務を手放したいと望んでも買い手がいなければ、M&Aは成立しません。近年、国内における経営陣によるM&A(MBO)や従業員によるM&A(EBO)により企業のノンコア業務の譲渡は増加しています。上場企業の保有する業績の振るわないノンコア事業に目を付けた投資家が買い取り、その事業を得意とする企業が新たに買い取るといったことも盛んになっています。
少し前に「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という、個人M&Aに関する本が話題になりました。人生100年時代と言われ、これまで日本ではあまり馴染みのなかった資産形成へ本格的に取り組む人が増えてきたことから、個人M&Aへとスポットライトが当たったのです。海外では個人投資家が事業譲渡の仲介役のような位置づけで、目を付けた事業の売買が活発に行われています。投資対象として事業の売買に個人が関われる風潮が日本でも広まりつつあることが、ノンコア事業の売却が進む理由と言えるでしょう。
こういった個人M&AなどのスモールM&Aが増加している背景には、環境の変化も忘れてはいけないでしょう。金融機関でもM&Aに対しての融資への姿勢の変化が見られ、資金に乏しい若手スタートアップや起業家でも、ある程度の資金調達が可能となる環境が整ってきています。また売買のニーズをマッチングする業者や、M&Aアドバイザーといったサポーターの増加も、買い手にとっては心強い存在となっているのです。
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ノンコア事業の売却は売り手と買い手がwin-winなM&Aになりやすい
先に挙げたように、ノンコア事業を抱える企業側からすると、売却することは様々なメリットを生み出します。コスト削減やコア業務への集中はもちろん、株式市場の反応も良くなるケースが多くあります。ROIC(投下資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を下回っている場合、企業の価値はマイナスイメージを与えます。生産性の悪い(ROICの低い)事業を売却することで、企業全体のROICの改善が期待可能です。企業価値を押し下げる存在を売却することは、投資家や株主にとっても、資産効率性が向上しているとみなされ、企業価値はプラスに、企業規模は縮小しても時価総額はプラスになるのです。
また、買い手にとっても、事業譲渡によるメリットは様々です。M&Aの際の交渉で、取得したい財産や従業員、取引先などを選別できますので、買い手が望む形での譲渡が比較的スムーズに進む場合が多くあります。一から起業した、または、これまで面識のない市場への参入の場合、ゼロからスタートするよりも、既にある程度のポジションや顧客を保有する事業の譲渡からの方が事業展開もよりスピーディーに進むでしょう。譲渡した事業が収益を上げるようになれば、企業価値も上がり、さらなる資産形成や事業拡大への道が開けていくことも、若手起業家や個人投資家を惹きつけるポイントでもあるのです。
ノンコア事業のスモールM&Aは今後もさらに国内で増加していくことが予想されます。後継者不足に悩む中小企業経営者から若手起業家への事業継承も含め、魅力の薄れた事業に新たに命を吹き込み再生させる循環はより一層強まりをみせています。こういった流れが活発化することは、今後の日本経済にとっても大きな利益を生むことになっていくでしょう。
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