日本政府は世界的な競争力を維持して日本経済を成長させるため、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」への取組を進めています。コロナウイルスの影響で対応に遅れが出たのも影響して、政府自体もDXを内部で進めている途中です。
現在まで政府は研究会を発足する、企業へ助成金を提供するといった取組でDXを後押ししてきました。急には進んでいませんが、少しずつ結果は出ているように感じます。
今回は日本政府のDXに関する取組を知りたい方向けに、その内容を時系列で説明していきます。
目次
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会を設置(2018年5月)
デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会を発足(2020年8月)
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会を設置(2018年5月)
まずは2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が発足されました。
日本企業においては、
・IT人材の不足でDXを推進できない
・システムのブラックボックス化が負担を引き起こしている
・クライアント企業がベンダーにシステム構築を丸投げする
といったDXを阻害する要因が複数ある状況でした。そこで政府では研究会を設置して課題を洗い出し、必要な対策を行えるように準備を行っています。DXの研究会はこの後の政府の取組にも深くかかわっています。
「青山幹雄 南山大学理工学部ソフトウェア工学科 教授」が座長となり、関連の専門家が集まって議論を交わしているのがポイントです。
2025年の崖に関するレポートを発表(2018年9月)
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会は、早くも2018年9月にDXの課題に関するレポートを取りまとめて世間に公表しました。そして「2025年の崖」というDXを実現できなかった日本の未来を示す概念を新たに発表しています。
2025年の崖を乗り越えないと、日本は年間12兆円最大で経済損失を受ける可能性があるとしているのがポイントです。ちなみに2025年は「5G(第5世代移動体通信技術)」が普及して一般的に使われるようになると予想される年と被っており、5Gの活用もDXを実現して2025年の壁を超える上で必要になるかもしれません。
レポートではシステムのブラックボックスといった日本企業の課題が浮き彫りとなっており、一通り読むだけで日本のどこにDXに関する問題があるのか理解できます。
DX推進ガイドラインを発表(2018年12月)
2018年12月には、研究会が「DX推進ガイドライン」を発表しました。2025年の崖発表を受けて、具体的な対策を盛り込んだ内容になっています。
・経営面で必要な対策
・システム構築面で必要な対策
の2項目に分けて対策やモデルケースなどが説明されており、ガイドラインとして活用することで政府が求めている内容を理解しながらDXを効率よく進められます。レポート自体も10ページ(表紙を除けば10ページ未満)となっており、すぐに読了可能です。
レポートでは
・経営陣が積極的にDX改革に取り組む必要がある
・現場でもベンダーに要件定義ができるような体制構築を心掛けること
・システム構築後も成果で導入効果を計測できる体制を作ること
といった内容が示されています。
DX推進指標を発表(2019年7月)
2018年12月のレポートでDXに関する対策は理解できるようになりましたが、具体的な成果指標はまだ発表されていませんでした。そこで2019年7月に、政府は「DX推進指標」を公表して使えるようにしています。
・DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
・DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
と、DX推進ガイドラインの項目に対応した指標構成になっています。DX推進ガイドラインと組み合わせて利用すると相乗効果が出てくるでしょう。
指標自体も数値化しやすい「定量指標」と数値化が難しい「定性指標」の2つに分けて説明されているため、両方の指標を組み合わせて冷静に自社のDX現状を分析可能です。
IT導入補助金を提供開始(2020年5月)
DX推進のためには、企業規模にかかわらず一定のコストが必要です。しかし予算を十分用意できない企業ではDXが止まってしまう可能性があります。
そこで政府は
・システムの構築代
・DX人材の雇用
といった用途に使える「IT導入補助金」を提供開始しました。飲食や宿泊など業種にかかわらず利用できるので使いやすい補助金です。
最大450万円の補助金を受けられるので、DXを進める上で推進剤になります。
またIT導入補助金はコロナウイルスを受けて対応を行っており、新型コロナ感染症対応「特別枠」として対象となる企業の補助金率を引き上げる施策を取っています。「コロナでダメージを受けた」という方は条件を確認して多めに補助金をもらいましょう。
デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会を発足(2020年8月)
コロナウイルスの蔓延は予想外のものでしたが、結果的に企業のDX化を推進しています。ただし推進できていない企業との差が開いており、2極化が心配されています。
政府ではコロナウイルスの影響を含めてDXを将来的に推進できるよう、新たに「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」を発足しました。コロナ禍による変化を明らかにして、DX推進への課題や対策の方法などを検討するための研究会です。
関係者の率直かつ自由な意見交換を進めるため、研究会の内容は非公開になっています。ただし会議内容は「DXレポート2」として報告書がまとめられて発表されました。
菅政権でデジタル庁創設に関する取組が進む(2020年9月)
2020年9月に安倍政権が終わりを迎え、新たに菅政権が発足しました。菅政権ではデジタル改革への取組を推進していく考えであり、その一環として「デジタル庁」が創設されることになりました。
・官民問わず能力が高い人材が集まる
・社会全体のデジタル化をリードできる
・行政手続きをデジタルデータで改革する
といったコンセプトの基で設立されることになりそうです。首相直轄組織にする案も検討されています。
実際に稼働が開始するのは2021年9月1日になっており、現在人材の選定などが進んでいます。ちなみにデジタル庁という名前は仮称となっているので、今後「DX庁」などと呼び方が変更になる可能性がある点に注意してください。
企業もですが政府も古いシステムを使っており、行政手続きに支障が出ています。デジタル庁によりどこまでDX化を推進できるかが、社会全体のDX達成に関係してきそうです。
DXレポート2として中間報告書を発表(2020年12月)
デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会では議論が進められ、2020年12月には「DXレポート2」が公表されています。
・DXレポート公表以降のDX政策と実際の結果
・コロナ禍で見られた事象とDXの本質
・デジタルサービスの浸透およびコロナによりDXの緊急性が高まったことについて
・民間企業がDXのために取るべきアクション
・民間企業のDXをサポートする政府政策
などを要点にまとめられているのがポイントです。
レポートではDX未実施や一部実施にとどまっている企業が全体の9割以上だと説明しており、レガシーな企業文化から脱却して変革できるかがDXのカギになると発表しています。イラストなどを使って文章量は多いですが分かりやすくまとめられています。
まとめ
今回は日本政府がDXに関してどんな取組を行っているのか、時系列で説明しました。
研究会の発足に始まったDXへの取組は、補助金の創設やデジタル庁の発足などにも広がっています。いろいろな面で政府が企業のDX化を推進できれば、コロナ禍でも柔軟に業務をこなせる企業が増加して企業競争力が上がってくるはずです。
2021年9月のデジタル庁本格始動以降、日本のDXがどう変化するのか注目しておきましょう。