新型コロナウイルスが流行している現代において、行政サービスや飲食店など、DXの導入を推進している業種が急増しています。
そんななか、経済産業省が2021年度に発表した税制改正の中に、「DX投資促進税制(DX税制)」が新しく追加されました。今回は、DXの導入を検討している方に向けて、DX投資促進税制(DX税制)の概要をDXに関連した税制改正とともにご紹介します。
目次
DX投資促進税制(DX税制)とは
経済産業省は令和2年12月、令和3年度(2021年度)の税制改正を発表しました。この中で、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設や、エコカー減税・環境性能割の見直し延長など、環境に配慮した税制の整備を発表しておりましたが、中でも注目されているのが「DX投資促進税制」です。これは、所得税・法人税・法人住民税・事業税において、DXの実現に必要なデジタル技術の投資について、税制控除や特別償却ができるという内容です。
DX投資促進税制を創設した背景
「DX投資促進税制」が創設された背景には、新型コロナウイルスの流行によって浮き彫りになってしまったデジタル化の遅れが関わっています。
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」「DX推進ガイドライン」によると、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残っていることで、最大で年間12兆円の損失が出ると算出しています(2025年の崖)。大きな損失を防ぎつつ、企業が競争力を強化していくために、経済産業省はDX推進の活動を進めていました。
また、自民党・公明党が発表した「税制改正大綱」でもDXの取り組みを推進するとしています。DXの遅れに対して警鐘を鳴らしていた経済産業省と、DXの推進を発表した内閣。双方の思いが、「DX投資促進税制」という新しい税制を創設した後押しになったのではないかと考えられます。
DX税制優遇を受けるための条件
「DX投資促進税制」を活用することで、デジタル関連の投資がしやすくなります。新しいビジネスモデルの作成やコスト削減など、デジタル技術を応用した改善策を検討している企業にとって、この優遇措置は心強い制度だといえるでしょう。
ですが、優遇措置を受けるためには「認定要件」を満たすことが条件です。「認定要件」は「デジタル要件」と「企業変革要件」の2種類を満たす計画を作成する必要があります。
デジタル要件
・他の法人等が有するデータ、または事業者がセンター等を利用して新たに取得するデータと内部データを合わせて連携する
・クラウド技術を活用する
・情報処理推進機構が審査する「DX認定」を取得する
(レガシー(中身が不透明で、自分等の手で修正できない状態に陥ったシステム)の回避、サイバーセキュリティの確保など)
企業変革要件
・全社の意思決定に基づくものであること
(取締役会の決議文書添付などの対応が必要です)
・商品の製造原価を8.8%以上削減する
・生産性向上や売上高の上昇の目標を定める
・投資総額が売上高比0.1%以上
「DX投資促進税制」の優遇は「ただクラウド技術を導入してデジタル化を図る」といったことだけでは受けることができません。このような理由で導入が必要で、導入したことでどのような効果が見込めるのかを具体的な数字で表し、取締役会の決議等の重要なステップを経て決める必要があります。
また、要件の中で特に注目したいのが、「投資総額が売上高比0.1%である」という点です。税制優遇を受けるためには、それなりの投資をする必要があるということを理解しておきましょう。
DX税制優遇案の内容
「DX投資促進税制」の内容は、以下の図のとおりです。先ほども少し触れましたが、対象は法人税・法人住民税・事業税・所得税とされています。
税制優遇措置は「税額控除の3%(グループ外の他法人ともデータ連携・共有する場合は5%)」または「特別償却の30%」です。どちらの税制優遇措置を選ぶかは自社の財務状況と大きく関わるポイントになるので、関係各所にしっかり確認した後に選びましょう。
その他DXに関連する税制改正
また、2021年度の税制改正では、「DX投資促進税制」の他にもDXに関連した税制改正もいくつか存在します。それらの税制改正についても、概要をご紹介します。
繰越欠損金の控除上限の特例
新型コロナウイルスの影響で厳しい経営状況のなか、事業再編に取り組んでいる企業を対象に、繰越欠損金の控除上限の特例が設けられました。この特例には、DXによる事業再編も対象に含まれていますので、DXへの投資を検討している企業は併せてチェックしたい税制改正です。
現在の繰越欠損金の上限は中小企業が100%、大企業が50%となっていますが、今回の特例では2020年度と2021年度に生じた欠損金に対しては大企業も100%まで控除を受けることができる、としています。2019年度の欠損金に対しても、新型コロナウイルスの影響を受けたと認められた場合は特例の対象ですが、いずれにしても最大で2事業年度が対象となります。控除上限を引き上げる繰越期間は最長で5年間となっています。
繰越欠損金の控除上限の特例を受けるためには、DX投資促進税制の時と同じく事業計画を作成する必要があります。新型コロナウイルス終息後に目を向けた事業再編の取り組みや、そのために必要な設備をどのくらい投資するのかなど、必要となる情報を事業計画に落としましょう。提出した事業計画が認定されると、特例が適用されます。
研究開発税制の改正
「研究開発税制」とは、企業が研究開発を行っている場合に、法人税額から試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額を控除できる制度です。経済産業省は今回の税制改正で、控除上限を最大50%まで引き上げ、研究開発費を維持・増加させるための税額控除率の見直しを行うことを発表しました。
研究開発税制の改正になかで特に注目すべきポイントは、研究開発費として新たに追加された内容です。これまでは、自然界に存在する科学的な事実を発見・立証する研究や、すでに実用化されている方法に関して新たな応用方法を探す研究などが研究開発費の対象とされていましたが、今回の税制改正では「クラウドを通じてサービスを提供するソフトウェアに関する研究」が研究開発費の対象に追加されました。
例えば、「資産現場のデータを収集・解析し、独自のAIにより最適な生産計画を提案するサービス」や「ドローン、AIを活用したインフラの自動点検サービス」、「遠隔制御やシェアリング等のモビリティサービス」などが想定事例として挙げられています。積極的に研究開発投資を維持・拡大してDXを推進することは、コロナ禍で苦境に立たされている企業にとって不可欠な動きだと経済産業省は判断していると言えるでしょう。
まとめ
今回は、DX投資促進税制の概要と、DXに関連した税制改正についてご紹介しました。
DXを導入するうえで重要なのが、「DXを導入することでどのような効果を見込めるのか」という点です。ただ単に業務を効率化させたい、コストを削減したいだけでは税制優遇を受けられないだけでなく、社内の混乱を引き起こしてしまうかもしれません。このような理由でDXの導入が必要で、導入したことでどのような効果が見込めるのかを事業計画に落とし込んで、社内外の関連部署にその必要性を理解してもらうことで、DXは効果を十分に発揮します。
もちろん、社内だけでは対応しきれない部分が出てくると思います。その時は、社外の専門会社に相談することも有効です。自社のビジョンを定めて、税制優遇を活用したDXを推進していきましょう。